第10話人生はタイミング45歳で食に目覚める。

ワクワクワークは、いつからでも私らしく生きること・働くことを全力でサポートする環境が整っており、年齢や経歴問わずさまざまな方が活躍中です。実際に料理の資格をもっていなかった方や60代70代の方でも、これまでの人生経験を活かしてセカンドキャリア、サードキャリアで生き生きと働いています。そこで、この連載では“ワクワクワークを彩る人たちの履歴書”と題して、教室にたずさわる方たちがどんな経緯でここにたどり着いたのか、人生のストーリーをご紹介していきます。
第10話は前編につづき、「おにぎりキャラバン」の講師としても活躍中の井口 香織さん(50歳)です。今でこそおにぎり屋さんやお米屋さんなど、食に関するライフワークで大忙しの香織さんですが、45歳までは料理とは無縁の生活をしていました。
この後編では、結婚しない主義だった香織さんを変えたもの、ワクワクワークとの出会いについて伺います。

ひょんなきっかけで結婚しない主義が45歳で入籍
第9話でご紹介したとおり、長時間労働を心配した母のひとことをきっかけに長年勤めていた会社を辞め、無理なく続けられる新たな仕事を見つけた香織さん。ほどなくして結婚しないと決めていたプライベートにも変化が訪れます。
「当時お付き合いしていた現在の夫も結婚しないという私の考えは理解してくれていたのですが、双方の親は結婚して欲しいと思っているだろうというのを何となく感じていて。そんなときに元号が平成から令和に変わったんです。
タイミング的にも最後の親孝行だと思って、“元号も変わるし、しとこか”くらいの感覚で籍を入れることになりました。それまでまったくする気配がなかったので、“届けを出したら本当に出したか連絡をくれ”と親に疑われました(笑)」
令和元年、香織さんが45歳のときでした。

コロナ禍で外食に頼れない……仕方なく料理教室を検索
そこから徐々に香織さんの生活に新しい風が吹き込んでいきます。
「結婚してすぐにコロナ禍に突入。それまで外食がほとんどで、自炊は焼肉のたれや炒め調味料の素を使って料理するくらいしかしてこなかったのですが、緊急事態宣言でお店が全部閉まっちゃって。そうすると世の中の私みたいな(自炊をしない)人がみんなスーパーのお惣菜を買うので、残業で出遅れてしまうとほとんど何も残っていなくて。
それでいよいよ作るしかないと。ちょうど緊急事態宣言が発令中のゴールデンウィークの前で、このままだと連休中に餓死しちゃうかもしれないし、どうせ遊びにも行けないならこの機会に料理でも学んでみるか……と。そこで見つけたのが、ワクワクワークでした」
料理を学ぶと決めた当初から、オンラインで受講できるところを探していた香織さん。その理由はいかにも香織さんらしいものでした。
「こういう性格なので男性の友人が多く、昔から女性の集団に苦手意識があったんです。だから、女性同士でワイワイキャッキャするイメージがある料理教室には抵抗があって。オンラインなら終わったらサッと接続を切ればいいし、ランチ会やお茶会などで集まらなくていいからぴったりだなと」
そこで、“オンライン”“料理教室”というキーワードを入れて引っかかった、ワクワクワークの「オーガニック滋養ごはん講師認定コース」を受講。初めはオーガニックが何かもよくわからない状態でのスタートだったのだとか。
「オーガニックっていい野菜のことでしょ? くらいの知識だったので、入ってみて“間違えたかな”と(笑)。講師になるつもりもなかったのですが、資格も取れるしどうせ習うなら体にいい方がいいしと、その程度の理由で決めて。授業料はすでに払っているので、学ぶだけ学んだら辞めちゃえばいいやと、その時点では次を続けるつもりはありませんでした」

糖尿病の夫のために食事づくりに四苦八苦
そんな矢先、夫が生まれて初めて健康診断を受診。結果、散々な数値で妻である香織さんが病院に呼び出されるという一大事が起こります。
「主人が病院の先生に“家でごはんを作っている人といっしょに来てください”といわれて、すごすごと連れて行かれ……。“どんなごはんを作っていますか?”“とてもいえません!”みたいな(笑)。多い時は1週間に3、4回は焼肉を食べるという生活をしていたので、こりゃあかんぞと。
結果的に主人は糖尿病だったのですが、薬を飲まなくてもいいようにここからがんばってくださいと、1日の摂取量が書かれた紙を渡されたんです」
これと決めたら一直線の香織さん。そこからは、夫のために糖質管理をしながら食事づくりに悪戦苦闘するのですが、制限がある料理は想像以上に大変なものでした。
「渡された表を見たら、油が大さじ1杯。1食ではなくて1日分で衝撃を受けました。それでも書かれた通りにやっていったのですが、全然おいしくないんです。段々それがストレスになってしまって。
そこで自分でアレンジを加え、本などを見ながらメリハリをつけてやってみたら、その年の12月に“数値が落ち続けているので、もう通院は卒業でいいですよ”といってもらえたんです」

不安だった料理に自信をくれた恩師たちの言葉
毎日のごはんが心身に影響することを身をもって体感した香織さん。ひとつの講座で終わらせるはずが、さらに苗美さんの「食の在り方講座」を受講したことがきっかけとなり、食の世界へ大きな一歩を踏み出します。
「そこである受講生の方が、“苗美さんは管理栄養士ですが、ワクワクで伝えていることと(食事摂取基準に)差がある部分もあることについてはどうお考えですか”と質問されて。そうしたら苗美さんが、“カロリー計算はあくまで計算上のもので、人それぞれ違いますよ”とおっしゃったんです。そこで1発目の稲妻がズドーンと降りました」
さらに、香織さんにとって忘れられない曹さんという受講生の言葉が、それまで閉ざしていた食への扉を一気に開きます。
「曹さんも管理栄養士で癌などの病気の方の食事コンサルティングをしている方なのですが、苗美さんが曹さんにも意見を求めたんです。そうしたら曹さんも“人にはそれぞれ生活スタイルがあるから、その人に合った食事方法をご提案することが大事だと思います”と。そこで2発目の稲妻が降りて。
自分の作るごはんで人の健康が決まってしまう怖さや、指標と違うやり方をしていることへの不安があったのですが、私のやっていたことは間違いではなかったのだ! と、やっとワクワクに心を開くようになりました。食のターニングポイントはズバリそこです」

苦手だった女性同士の付き合いもワクワクでは平気に
こうしてさまざまなタイミングや興味関心が重なり、どんどん新しい世界の階段を登っていった香織さん。個性あふれるメンバーとの出会いも苦手意識を持たずに参加し続けられた一因だったようです。
「次で辞めようと思っていたタイミングで“おにぎりワークショップ認定講座を開講します”というお知らせがきて。じつはおにぎりには特別な思い入れがあって、結婚前は母が毎朝おにぎりを持たせてくれていたし、結婚後は主人に朝ごはんのおにぎりだけはちゃんと作っていたんです。それで受けてみようと。
そうしたら同期の5期生がみんなとてもユニークで。それまでキラキラした眩しい人ばかりかと思っていたのですが、“ワクワクにもめっちゃ面白い人おるやん!”と」
さらに、苗美さんやのなさんからの何気ない声がけも、香織さんの中にあった料理教室の負のイメージを払拭していったようです。
「講師になるつもりはありませんと断ったときも、“そっかそっか、色んな人がいるから大丈夫!”とすごく温かく見守ってくれたし、苗美さんものなさんも一貫して“無理をしなくていいしすべて受け入れます、過去は一切否定しません”とおっしゃっていたんですが、“絶対そんなことないやろ……”と最初は疑っていたんです。それが本当だったのだと後から気がつきました。
ワクワクは女性ならではのキャピキャピした感じがなく、集合してテキパキと料理をして解散! みたいな。女性特有の気の遣い合いもないし、今はすごく居心地がいいです」

夢は口に出すことで叶う! 大阪万博に向けておにぎり屋をスタート
その後、関西で講座をやるときにアシスタントに入ったり、おにぎりキャラバンの講師を務めたりと、活躍の場を広げていった香織さん。48歳のときにはおにぎり屋さんをスタートさせます。
「生まれ育った大阪で万博が開催されることになり、外国の人たちに私は何を伝えたいだろうと考えたときに、おにぎりの素晴らしさを知ってほしいと思ったんです。
ちょうど北区中津というところが地域で万博を盛り上げていこうと中津万博というのを開催していたので、そこで握りたい! と友人に相談したところ、“うちにレンタルキッチンがあるから、そこでやったらええやん”と。次の日には料金表と契約書が送られてきて、どうする? と。やりたいと口に出してから2日ではじめることになりました(笑)。ワクワクの麻紀子さんにも相談したら、やりなよ! と即答で、背中を押してもらいました」
こうして地域の交流拠点となっている関係案内所「なかつもり」という場所で、土曜限定のおにぎり屋さん「おにぎりと味噌汁時々。。。」をオープン。おにぎりに使う食材にこだわり、イベントなども頻繁に開催しているのだとか。
「すべてがオーガニックではないですが、塩は淡路島のもので、海苔は三重県産など、なるべく関西の近隣地域の食材を厳選して使っています。
それと、お米の消費量が減っているのもなんとかしたくて、『47都道府県のお米と味噌を食べる会』というイベントを月に2回ほど開催しています。都道府県の独自で作っているオリジナルのブランド米というのがあるのですが、七夕には鳥取県の『星空舞』を、バレンタインには広島県の『恋の予感』を食べましょうとか、想いとともにプチギフトとしてお米を贈ってみてはどうかという提案をしたり、楽しみながらお米の良さを伝えていけたらと思っています」

自分のペースを大切にするワクワクならいつからでも遅くない!
そんな活動をしていくうちにお米の販売もしたくなり、昨年の9月からはついにお米屋さんもはじめた香織さん。やりたいことを次々と叶え、生き生きと毎日を過ごしています。
「ワクワクでのミーティングでもよく言うのですが、“やりたい!”と私自身がガンガン言うタイプなので夢を実現できているのではないかと。口に出すと周りのみんなが色々と教えてくれるので、忙しくてリサーチできなくても自然と情報が入ってくるんです。今は会社員との二足のわらじですが、いずれ定年後に専業にできたら。今はその種を撒いている段階です」

いくつになってもやりたいことは見つけられるし、実現できると思わせてくれる香織さん。最後に、ワクワクワークに興味がある人たちへのメッセージを伺いました。
「食べることって人生で切り離せないし誰にも変わってもらえないので、苗美さんや曹さんがおっしゃっていたようにできる限り自分に合った、それぞれのスタイルを見つけていくことが大切。ワクワクは考え方を押し付けないので、頑張れないときに頑張りなさいとはいわないし、逆に頑張りたくなったらその人のペースに寄り添い、背中を押してバックアップしてくれます。
私もすべてがオーガニックではありませんが、主人のことがあってやってみて改善されたので、塩だけ変えてみるとか、いつか実践するために今は勉強だけしておこうとか、できることからはじめてみればいいのでは。私のような人もいるし、人っていつからでも遅くはありませんよ!」
次回は、香織さんがユニークなメンバーが多かったと語ってくれたおにぎりワークショップ認定講座の5期生で、苗美さんの同級生でもある寺嶋久子さん(72歳)のストーリーです。お楽しみに。